学会誌「自然災害科学」

自然災害科学自然災害科学 阪神・淡路大震災 緊急特集号,1995, Vol.hnaw,No.1, p1f

【巻頭言】[Preface]

阪神・淡路大震災特集

特集号の発刊にあたって
兵庫県南部地震の教訓

日本自然災害学会会長
土岐 憲三

兵庫県南部地震の後で,しばしぱ尋ねられるのは,今回の地震から得た教訓は何ですか,ということである。これに対しては,直下で起こる強い地震に対して都市がどのような欠陥を抱えているかが日本と世界の人々の前に明らかにされたことである,と答えることにしている。この地震から学ぶべきことは政治,経済,社会,科学,技術などいろいろな分野で語られ,違った観点から検討されてもいるが,それらを包含する全ての分野に当てはまるのは,都市の発展過程において,地震に対して都市の持つ欠陥が増幅されてきたにも拘わらず,それらが見過ごされてきて,一挙に顕在化したのが今回の地震災害であったと言えよう。

終戦直後の昭和23年に福井地震があった。これは福井平野の直下で起こったものであるが,当時の福井市は大都市でもなかったし,戦後まもなくのことであったから,その後の各地での都市の発展過程において参考とされることもなかった。こうして,戦後の50年は大都市の直下で強い地震が起こったときに,都市やそれを支える社会基盤がどのような災害を被るかが明らかにされないままに,都市が変貌を遂げ大都市化が進んできたのである。換言すれば,都市が地震に対して持つ弱点が都市化の過程においてフィードバックされないままに,都市化が進んできたのである。風水害などの白然災害では被災する頻度が高いから,そのようなフィードバックの機能する機会が多く,欠陥が露呈したりそれを手当するというプロセスが働いた結果,我が国の台風などによる被害は昭和24年の伊勢湾台風以後急減している。今回の地震とそれによる被害のような大規模災害を経験するのは50年,100年に一回という極めて稀なことであるから,他の大都市においても近い将来同様なことが起こると考え,それに対する対策を考える必要がある。そのために学ぶべきことは多く,得るべき教訓は多い。