学会誌「自然災害科学」

自然災害科学43 Vol.16,No.3, 1997, p165f

【学会賞】

平成9年度の学会賞の授与について


平成9年10月17,18日の2日にわたり大阪府吹田市で開催された第16回日本自然災害学会学術講演会の開催2日目の平成9年度第2回総会の席上で,平成9年度日本自然災害学会学会賞の授与式がとり行われた。学会賞には功績賞と学術賞の2つの賞が設けられている。学術賞の受賞者に長崎大学工学部の高橋和雄氏が選ばれた。功績賞には秋田県つり連合会(代表者 川村 浩)が選ばれた。

学術賞

  1. 受賞者:長崎大学工学部 高橋 和雄 氏
    長崎大学工学部 高橋 和雄 氏
    高橋 和雄 氏
  2. 研究題目:九州における自主防災組織の活動の分析と定着化に関する研究(総合題目)
  3. 受賞内容:

    豪雨災害では,河川氾濫,土石流,斜面崩壊,道路の寸断などが同時多発的に生じ,防災機関の対応のみでは情報伝達,避難誘導,人命救助は不可能である。このため,自主防災組織の活動が期待されている。昭和57年7月長崎豪雨災害の被災地長崎市,シラス斜面の崩壊危険地を持つ鹿児島市,土石流が頻発した雲仙普賢岳の火山災害の被災地島原市などでは,行政の主導によって自主防災組織が結成されている。しかし,その活動は活発とは言えず,定着しているとは言えない状況である。

    本研究はアンケートおよびヒアリング調査をもとに,九州における自主防災組織の現状と課題,災害時および災害後の対応などを明らかにしている。さらに,自主防災組織の定着化・活性化の方策,行政の支援のあり方などを示している。これらの調査研究は短期間に公表され,行政が地域防災計画を見直す祭に活用できるように配慮されている。

    以上のように,本研究は自主防災組織の活動の実態を明らかにし,活性化・定着化のための貴重な情報を提供した速報性,実効性を持つ実用的な研究で,しかも阪神大震災の発生以前からコミュニティーレベルの防災力に着目した調査を継続しており,その成果は高く評価される。従って、本学会の学術賞に値すると判断された。

功績賞

  1. 受賞者:秋田県つり連合会 (代表者 川村 浩)
    秋田県つり連合会 代表者 川村 浩氏
    代表者 川村 浩 氏
  2. 研究題目:釣り人を津波遭難から守るための啓蒙活動
  3. 受賞内容:

    1983年日本海中部地震津波により,秋田県では釣り人に12名の死者を出した。その死に至った条件を詳しく調べ,「大津波に襲われた」(366頁)を発刊した。また,30周年記念誌(平成7年3月)には,最新の地震空白域情報とともに,津波から身を守るための方法を掲載した。

    このように津波対策に関する情報を普及する一方で,毎年の磯釣り大会に合わせ,釣り人ならではの訓練実験をも行っている。例えば,釣竿を持つか持たないかで生ずる避難時間差の実験,携帯ラジオやポケットベルによる緊急連絡の成否,海上保安部との連携による避難訓練・救助訓練などである。

    こうしたことを通じて,釣り人の命を守る条件の発見とその普及に,この14年間継続して努力している。このような啓蒙活動は本学会の定める功績賞に値すると判断された。

これに関する記事は「自然災害科学」Vol.16-3に掲載される予定です。