Vol.9-2

 
あいさつ
日本自然災害学会 会長  伯野 元彦

 

Motohiko HAKUNO

 このたぴ,思いがけず自然災害学会会長に推挙されました。どうかよろしくお願い致します。私が会長に就任致しましたのはこの4月からですが,それをあざ笑うように災害が方々で起って困っております。まず6月には,イランで5万人以上もの死者を出した地震が起こりました。続いて,九州地方で梅雨末期の集中豪雨による洪水と±砂崩水による災害です。そして7月に入るやフィリピンの地震です。私は文部省の自然災害科学研究班をかなり長くお手伝いさせて頂いているためか,どうも自然災害と縁が深くなり過ぎたような気がします。昨年のサンフランシスコ地震の時も,別の国際会議でデンバーに居り,タ方ホテルに入ってテレピのスイッチを入れたら,その時地震が起こったというニュースが放映されてピックリしました。国際会議での自分の発表が終るのを待ちかねるようにして,サンフランシスコに急いだのも当然です。日本に帰った後で,皆に,地震を予知していたのかと真顔で聞かれて弱りました。6月のイラン地震ですが,この時にも偶然,地震の3週間程前に矢張り国際会議でイランのテヘランに居り,会議前のツアーで今回の被災地の南東100km位のカスピ海沿岸を旅行しましたので,この付近の家屋の構造,材料,地勢などがどうなっているかを知ることができました。このように私は,自然災害,特に地震と密接になり過ぎたので,そのうち,伯野が来ると地震が起こると入国を拒否されるのではないかと心配です。
 最近のイランとフィリピンの両地震は続いて起こったので,マスコミの対応その他について勉強になりました。フィリピンの方が日本に近いせいもあり,近代的ピルが倒壊したためもあって,マスコミのとりあげ方が派手です。しかしながら,死者数は,イランが5万人,フィリピンが1,600人と大変な違いで,フィリピン地震が30回起こって,始めてイランの地震と同じになるのです。日本では地震で何千人もの死者が出たら政権は恐らくつぶれるでしょう。それ位,何万人の死者は大変なものなのです。しかし,今やイラン地震を耳にすることはほとんどありません。これは,死者数の多い原因が.世界でも地震に対して最も弱い日干しレンガ造りの家屋にあるため,諦めに似た感情がマスコミにもあるのかもしれません。イランとかトルコとか南米のペルーとか,この日干しレンガ,土石とかで造られた家屋のため,昔から数万人規模の地震犠牲者が度々生じて来ました。貧しいため他の建築材料が手に入らないための悲劇ですが,これは土とか石のような材科では地震時に崩壊するのは当り前という,見捨ててしまったような状況では何の解決にもなりません。耐震研究の不足も一因ではないかと思います。日本が提案国となった「国際防災の10年」がスタートしたことでもあり,同じ地球号に乗り組んでいる一員として,他の乗組員が一寸した地震で何万人も無念の思いで死んで行くのを放置しておいてよいものでしょうか。そうかといって,日本から耐震的な建築材料,例えば,鋼とかプラスティック材などを援助するなどは,その量が莫大なため実現不可能であります。やはり,現地で安く手に入る土,石などを用いて,如何に耐震的な家屋を作るかを研究することを援助するのが最も実現性が高いように思います。それも,現地の事情を知らない日本人が研究を行うのではなくて,現地で現地の研究者が主体的に研究を行うのでなければならないでしょう。勿論,振動台とか測定機器などは先進国の方が進んでいるから,そういうものは外国製を使うということになりましょうが。以上のように自然災害研究には「絶対にノーベル賞は貰えないし,お金儲けにも縁がないけれども,人間の命を救う重要な研究」が残っているのです。自然災害のうちの地震についての一例を述べたのでありますが,他の災害についても同様でしょう。私はそのような重要な研究に従事できるということを幸せに思っております。
 さて,話は急に世帯じみて申し訳ないのですが,学会は今,会員諸兄が会費納入を忘れられるためもあって,台所が火の車です。どうか,そちらの方もお忘れなくお願い申し上げます。


東京大学地震研究所 教授
Earthquake Research Institute, University of Tokyo


日本自然災害学会