Vol.6-3

 
あいさつ
日本自然災害学会 ・ 会長  石原 安雄
Yasuo ISHIHARA

 


 本学会は創立以来6年を過ぎ,昨年「日本自然災害学会」と名称を変え親しみ易くなりました。これまで,松沢勲前会長の下で学会の基礎が作られ,発展して参りましたことは同慶の至りに存じます。こうしたときに会長に推挙されましたが,その任の重大きを痛感致しておりますとともに誠に光栄に存じます。
 学会員数が 500 余名となり,学会として充実して参りましたが,尚一層の進展をはかるため,本年度より支部をおく前提として,地区担当の理事をお願いし,地区内における学会活動の振輿を図って頂くことになりました。会員の方々の御活躍を期待致しますとともに,御協力,御支援をお願い致します。
 さて,本学会の目的は,「自然災害科学の研究の向上と発展につとめるとともに,防災・減災の技術に資する」ことであります。わが国においては,残念ながら,自然災害が毎年どこかで発生しています。世界的にみても同様のことがいえます。多大の努力と経費をかけて防災施設が造られているにもかかわらず,自然災害が頻発しているということは,その中に究明しなければならない重要課題が潜在しているのではないでしょうか。
 自然災害が起こる過程に関しては,異常な自然現象の仕組みとその発生の予知,巨大なエネルギーの伝播過程,その間におけるエネルギーの制御法,各種の防災施設の構造的・機能的破壊の限界,社会の防災力等の科学的研究が必要であり,防災・減災の対策に関しては,発災前,発災中,発災後の有効な対策のあり方が模索されなけれぱなりません。
 しかし,現実に,各地で自然災害が発生しているという現実をみるとき,これらの課題の研究の進展が強く要望されるところではありますが,研究の仕方に一工夫をしなければならないのではないでしようか。それには,もっともっと実際に起こっている災害事象に学ぶべきではないでしようか。少なくともわが国では,将来起こると予想される異常な自然現象を想定して,防災・減災の対策がとられており,また進行中ではありますが,現実には災害が発生しているのであります。そして,幸にも災害後の科学的調査が実施できる体制ができております。突発災害調査によって,発災の原因と被災の様相は調べられておりますが,災害を起こした自然現象の異常性とその仕組み,巨大エネルギーの伝播の様子,防災施設と建造物の被災原因,社会の物理的形態と被災形態,発災前から発災後に至る社会と人間個人の行動等を解明することが肝要と考えるものであります。こうした意味における好例を宮城県沖地震に際しての調査研究にみることができます。高層建築物における大きな加速度の発生,各種ライフラインの被災原因と復旧のあり方,都市の付帯施設の耐震性,被害時の人間行動,地盤の耐震性等に新しい知見が見出され,多くの提案がなされたのであリます。それは仙台市に起こった災害事象に学ぶという態度が貫かれた結果であろうと感服しているものであります。
 l984年の第8回世界地震工学会議の基調演説において,全米科学アカデミーのフランク・プレス会長によって提唱された国際防災旬年(International Decade for Natural Hazard Reduction, IDHR, l990〜2000の予定) が始まる機運にあり,わが国においても研究者による「IDHR懇談会」,国土庁防災局の呼掛けによる「IDHRの構想のための連絡会」が結成きれ準備が進められています。いまや,自然災害科学の国際化も始まろうとしているのでありまして,境界領域ないしは学際的課題として進展してきた自然災害に関する科学が真に学問として発展することが期待されていると考えております。会員の皆様の一層の御研鑽を祈念しております。


京都大学防災研究所
Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University


日本自然災害学会