Vol.12-2
 
変革の時を迎えて
日本自然災害学会 会長  土岐 憲三
Kenzo TOKI

 

 日本自然災害学会が創立12年目を迎えた本年,4代目の会長に推挙されました。大変光栄でありますが,それと同時に責務の重さを思うとき,身の引き締まる思いが致します。日本自然災害学会(以下学会と略称)は文部省科学研究費による自然災害科学総合研究班(以下,総合班と略称)の活動をベースとして昭和56年に設立されました。総合班は特別研究,重点領域研究と引き継がれて参りましたが,学会の年次発表会も総合班による総合シンポジウムとの合同で行われるなど,学会活動は総合班に依存する状況が続いておりました。しかるに,自然災害に関する重点領域研究は平成4年度をもって終了し,総合班は科学研究費の総合研究(A)としてその規模を縮小した形で存続することになりました。
 このように総合班の規模が縮小され,性格も変わらざるを得ないことから,学会は自立度を高めねばならない状況にありますが,これは学会としては本来の姿に戻ることであります。学会がこれまでのような総合班への依存から脱却し,自立度を高めるためには以下のような方策に立脚して,自己変革を図らねばなりません。すなわち,
1)現在の会員は大学などの研究者が主であるが,他の研究機関の研究者や防災行政関係者の会員を増強する,
2)学会誌も論文主体から,国の内外における防災関係の各種の情報を提供できるものに改める,
3)支部を設置して,支部毎の活動を行い,学会全体としての活性化を図る,
4)学会の財政基盤を固める,
などであります。
 現在の会員数650余名のうち,ほとんどが大学関係の研究者であり,これは総合班との結び付きの強さを示しています。このような大学関係の研究者だけによる学会という性格を改め,国や民間の会社の研究者にも当学会の会員になることを呼びかけ,さらに国や自治体などの行政機関の防災関係者にも会員になって頂かねぱなりません。
 学会の変革に関わることですぐに出来ることは学会誌の内容を改めることです。その第一歩としての本号では,すでに内容が変わっていることにお気づき頂けると思います。これまでの学会誌は研究論文・報告・短報・学会記事などから成っていましたが,いずれも研究関連のものに限られていました。本号に見るように,今後は最近の災害に関する記事,情報提供など,災害の事象と防止に関わる多くの事柄についての記事を掲載することに致しております。
 支部を設けることに関しましては,本年度の第1回の理事会において了承が得られております。北から順に,北海道,東北,関東,北陸,東海,近畿,中・四国,九州の8支部であります。災害事象には強い地域性があることから,それぞれの地域に特有の災害に関する事項について自発的な活動を起こして頂き,それらを通じて自然災害の防止・軽減に資する学会全体としての活動が活発になることを期待するものです。こうした活動をするためにはこれまで以上の経費が必要になりますが,出来るだけ個人会員の負担を少なくするためにも,賛助会員を増やすとともに学会誌への広告の掲載などについても検討を進めているところであります。
 災害に関わる極めて広い分野の専門家が,分野の壁を越えて集う日本自然災害学会は世界でも他に例を見ないユニークな学会であります。このような学会を研究者だけのものにせず,自然災害に関わるあらゆる分野の人々にも積極的に関わりを持って頂くことで,基礎研究から実務にまでわたる活動が一貫して行われることになり,災害の防止と軽減に大きく寄与できるようになります。日本自然災害学会は,今こそこのような変革を遂げねぱならない時期であります。会員の皆様の絶大なる御支援と御協力とをお願い申し上げる次第です。


京都大学工学部教授
Faculty of Engineering, Kyoto University


日本自然災害学会